地域振興の側面からみた「政策統合型諏訪6市町村間連携方式」の確立に
向けて

山田一六(2011年3月修了)

はじめに ―諏訪地域の将来を考える―

 諏訪地域は、縄文時代からの歴史的価値の高い遺跡物、山・森・湖・温泉などさまざまな自然環境と、快適な居住環境に恵まれている。私たちはこれらを破壊することなく保全し、独特の風土・文化を大切にして、次の世代へ引き継いでいく責任がある。
 また、高度に発達した情報サービスや科学技術力・管理手法を、地域の医療・福祉・防災といった生活関連分野へ重点投入して向上を図るとともに、産業・文化・教育などの分野においても「すわブランド」をつくりあげ、地域間競争に勝利していかなければならない時代である。このためには、勤勉で進取性に富み、忍耐強いという諏訪人気質の原点へ立ち戻るとともに、閉鎖性を打破して異質性を取り込む包容力が求められている。
 少子・高齢化および総人口減少の波は、諏訪地域にも例外なく押し寄せてきている。保健・医療・福祉費用等の増大は、自治体財政へ大きな影響を与え、生産人口(働き手)や事業所の減少は、経済活動の停滞をもたらしている。これらの状況にどのように対処していくか、行政・企業・住民が真剣に考えて、地域の活力保持に努めなければならない時代である。
 高齢化社会への対応としては、高齢者がもっている得意とする技術・技能が活かせる仕事への支援や福祉等のボランテイア、伝統文化の伝承支援など、地域活動の担い手として活躍の場づくりをする必要がある。
 一方、家庭・育児と仕事を両立させる女性の負担軽減をはかるためには、家庭における固定的な男女の役割分担の見直しをはじめ、働き場所における育児休暇制度の導入拡充や、行政における子育て支援の制度的・財政的施策の充実をはかることが求められている。
 諏訪地域においては、平成13年から分権型行政確立を掲げて4回目となる諏訪6市町村合併協議が始まったが、富士見町と原村住民の合意が得られず、3市・2町・1村体制が継続することになって既に7年が経過した。
 この間、生活圏・経済圏・文化圏の同一性は一段と深くなり、土地利用・産業振興・福祉医療・環境問題など共通の重要課題への対応については、6市町村が一体となった広域的な取り組みの必要性が一段と高まっている。当面行政統合が展望できない現在、これら共通政策に関しては、どのように政策化し財政的に裏付けて推進するか、真剣に取り組まなければならない時代である。
 以上のような認識の上にたって、本論文は修士論文の2章と6章をまとめ直し、諏訪6市町村合併不成立要因を解明し、その反省の上に立って地域振興をはかる観点から諏訪6市町村の共通政策課題の統合化による連携方式確立の提言、行政改革の総仕上げとして、中長期的には行政統合を提言するものである。

諏訪地域における市町村合併への取り組みの歴史と総括

1.諏訪地域の概要

 諏訪地域は、長野県のほぼ中央に位置し、諏訪湖を中心とする岡谷市・諏訪市・下諏訪町の2市1町と、八ヶ岳山麓に広がる茅野市・富士見町・原村の1市1町1村の計6市町村で構成され、面積は715.41k㎡人口は210,885人(平成17年国勢調査)である。
 諏訪圏域の歴史は有史以来諏訪大社と深く結びつき、祭事は諏訪の住民あげておこなわれ、江戸時代末まで「諏訪の国はひとつ」として高島藩が諏訪地域を治めたのち、廃藩置県により諏訪郡として行政区画が整備され、明治20年代の合併、昭和の合併を経て現在の3市2町1村の6市町村行政が確立した。
 このような地形的な一体性、地理的な近接性から、住民意識には素朴な連帯感共通感情があり、これまで経済、歴史、文化、生活などあらゆる面で共通性を保ち、一体的な日常生活圏・経済圏が形成されている。

図1

2.新産業都市内定を契機とした取り組み

 〈第一次・1960年代〉
 昭和38年、松本.・諏訪地区が新産業都市内定を契機に諏訪6市町村の経済人が6市町村長へ「全ての産業振興のために合併を実現して、経済の振興を図って欲しい」旨申し入れ、6市町村長・議長による「諏訪市町村連絡会議」が設立された。昭和41年1月には任意の諏訪市町村合併協議会となって協議がすすんだが最終的に財産区の取り扱い等につき各市町村の意見が一致せず、任意協議会は解散した。

3.署名運動からの取り組み

〈第二次・1990年代前半〉
 昭和63年2月、諏訪圏青年会議所を母体とした「諏訪はひとつ」合併推進協議会が発足し、「6市町村合併試案―20万都市実現に向けてー」を発刊。平成2年には、諏訪地域有権者の56%に当たる85、558人の合併賛成署名を集め、6市町村同時合併を求めて6市町村長および議会議長へ陳情・請願した。
 請願は6市町村議会に上程され、岡谷市・諏訪市・下諏訪町では採択されたが、茅野市・富士見町・原村は審議未了により廃案となった。

4.住民発議制度からの取り組み

 〈第三次・1990年代後半〉
 地方分権が進められる中、平成7年4月1日、「市町村の合併の特例に関する法律」(以下「合併特例法」)は、有権者の50分の1の署名で合併協議会設置を請求できる「住民発議制度」が盛り込まれ、法改正がおこなわれた。これを受けて、平成8年9月、合併推進協議会は合併協議会設置に必要な住民署名を集め、6市町村を合併対象とする「合併協議会設置請求書」を6市町村へ提出した(住民発議成立)。平成9年2月、6市町村は一斉に臨時議会を招集、「諏訪地域6市町村合併協議会の設置について」を付議。岡谷市・諏訪市・茅野市・下諏訪町では賛成多数で可決。しかし富士見町・原村では反対多数で否決され、合併協議会設置は見送られた。

5.4回目の諏訪6市町村の合併協議

 平成7年の「合併特例法」は、平成11年に大幅に改正され、住民発議制度の拡充、合併特例債発行など財政支援、地域審議会の創設などが盛り込まれた。これを契機として、「平成の大合併」と呼ばれる全国的な市町村合併へ進展した。
 諏訪地域においても市町村合併環境の変化を受けて、4回目の行政・経済界主導型合併の動きが起こった。

(1)6市町村合併協議の取り組み経緯

 〈第四次・2002年以降〉
 平成14年1月研究委員会は、6市町村の行財政・事務事業の現況調査を実施。合併のメリット・デメリットの抽出と対応の考え方、住民サービス・生活環境・福祉などの分野別に課題を整理するとともに、6市町村が合併した場合、理事者・議員および職員数を、「人口が同程度の規模の自治体と同じ数に縮減すれば、理事者と議員分で年間5億6千万円、一般行政職員分で年間38億円分の費用削減になる」とする報告書を提出し公表した。
 同年10月「諏訪地域6市町村任意合併協議会」が発足。月1~2回のペースで協議会を開催し、合併の「基本4項目」など次の事項を決定した。
①合併の方式:新設合併
②合併の時期:平成17年3月31日までに合併
③新市名称:「諏訪市」
④合併後の設置選挙の議員定数:39名(現在は 116名 選挙区を設ける)
⑤新市の事務所の位置:別途協議とするも6市町村の現庁舎は地域局(現地解決型の総合事務所)として活用
⑥新市建設計画案の骨格:諏訪地域の合併は、地域主権の考え方に基づく「分権型合併」、新市の将来像は「諏訪湖と八ヶ岳がひびきあう、やさしさと躍動の日本中央拠点都市」、「生活に直結する住民負担と行政サービスのあり方について基本的な考え方を明示」
 6市町村は「新市建設計画案」の住民説明会を開催。平成15年12月~平成16年2月にかけて、6市町村合併の是非を問い、住民投票は下諏訪町・富士見町で、住民アンケートは諏訪市・岡谷市・原村で実施された。その結果、富士見町67%・原村64%の反対の民意が示され、2町村は任意合併協議会から離脱した。
 これを受け、茅野市は岡谷市・諏訪市・下諏訪町4市町との合併の是非を問う住民アンケートを実施した。反対が67%に達し、任意合併協議会から離脱したため、6市町村任意合併協議会は平成16年3月31日を以って解散した。

(2)2市1町合併協議の取り組み経緯

 平成16年3月、6市町村の任意合併協議会が解散した後、岡谷市・諏訪市・下諏訪町の3市町合併協議は、3市町の職員による「湖周都市プロジェクトチーム」による、3市町が合併した場合の「新市構想を作成」することからスタートした。住民説明会を経て、7月に3市町合併協議会を設置する議案が3市町議会に提案され、賛成多数で可決。以後月1回~2回のペースで合併協議会を開催し、次の合併基本事項を盛り込んだ「新市建設計画」を策定・公表した。
①合併の方式:新設合併
②合併の時期:平成17年3月末までに合併
③新市の名称:「諏訪市」
④新市の本部事務所の位置:現在の諏訪市役所とし、3市町庁舎に総合事務所である地域局を置く
⑤合併後の設置選挙の議員定数:28名(現在は64名) 選挙区は設けない
 これを受け、諏訪市は10月に3市町合併の是非を問うアンケートを実施。賛成43%反対50%の僅差で反対が多数となったため、同市は合併協議会から離脱。岡谷市・諏訪市・下諏訪町3市町合併協議は不成立となった。

(3)合併の不成立要因の考察

 まず、諏訪6市町村合併不成立の直接の原因となった富士見町・原村住民の合併反対の理由について、関係者に実施したインタビューから以下のことが得られた。
①固有の歴史と伝統をもって文化や自然を育ててきた地域が、合併によって埋没してしまうのではないかという不安感が強かった。(旧6市町村の自主性・自立性を保障する分権型合併という新機軸が充分に理解されなかった)
②周辺部となることによる不利益や福祉・医療・子育てなど高い水準の住民サービスが低下するのではないか危惧した。(地域の将来ビジョン策定に市民参画の機会がなく、また合併による利点を具体的に示すことが不足していた)
③湖周地区(諏訪市・岡谷市など商工業中心)と山麓地区(富士見町・原村など農村地域)という異質の地域の合併に対して、住民に感情的な抵抗感が存在していた。
④原村は、明治以来合併経験がないため自立意識が強く、一方、財政面からの危機感は薄かった。また、富士見町は昭和の合併のしこりが残っており、合併そのものに対して否定的感情が存在していた。加えて両者とも住民サービスは、他の4市町より良好な分野があり、合併によるメリットよりもデメリットを危惧した。
 これに対し、岡谷・諏訪・茅野・下諏訪の4市町合併について、茅野市の離脱理由を前茅野市長矢崎和広氏は、「山麓地区の原村・富士見町の加わらない合併は、茅野市民として感情の上から合意し難いというものであって、原村・富士見町・茅野市の住民の一体感の強さが最大の離脱要因というべきであろう」と分析した。
 次に、3市町村離脱後の諏訪・岡谷・下諏訪の2市1町合併不成立の原因について筆者は以下のように分析した。
①諏訪市長は3市町合併の前提として、新市の名称は諏訪市、本庁の位置は現諏訪市役所、分権型合併推進の3条件を提示し、3条件とも決定されたが、市議会での十分な協議をおこなうことなく、また、自らの考え方を示すことなくアンケートを実施した。(リーダーシップの不在)
②新市建設計画が正式決定する前に市民へのアンケートが実施されたため、新市の構想・ビジョン・行政サービス水準などについて、充分な情報が提供されなかった。(アンケート実施のタイミングが不適正)
③アンケートの設問の中で、「わからない」と回答した場合「どうして欲しいのか」を吸い上げる回答欄が無かった。(住民意向を確認する設問上の不備)
④茅野市が離脱したことにより、隣接地区に住む諏訪市民(諏訪大社の上社氏子住民)に、「茅野市を含まない合併」への、感情的な反対意思が働いた。

6.第四次合併協議新市建設計画にみる 諏訪6市町村の「分権型合併構想」の特質

(1)諏訪6市町村合併の必要性について

・時代の潮流の視点からは、「地方分権の推進と行財政能力強化」「少子・高齢化対応策の高度化・多様化する行政 ニーズへの対応」「住民の自治能力を強化し、協働のまちづくりの推進」の3項目
・地域特性の視点からは、「諏訪地域住民の実際の生活圏・経済圏に即した一体的・効率的まちづくり」「全国有数の産業集積を活用し、自立度の高い中核的産業都市構築」の2項目

(2)合併の効果としては、

「約793億円の財政支援を活用した財政基盤の強化」「行政能力の強化と行政サービスの向上」「広域的視点に立った一体的・効果的なまちづくりの推進」「地域イメージの向上と総合的なまちづくりの期待」とした。

(3)諏訪6市町村の「分権型合併を目指すまちづくり」とは、
  「より高い住民自治」「より安定した財政基盤」「より高い政策立案」を実現するために

・新市全体が統一して推進する分野(高度化・多能化するサービス提供、広域的視点に立った施策展開重点投資による基盤整備、行財政強化と効率化)は、スケールメリットを生かしてよりダイナミックに活動
・旧市町村が主体的に推進する分野(きめ細かい住民サービスの提供、コミュニテー重視のまちづくり、地域への権限移譲、地域文化の継承と創造)は、より地域に密着して対応する仕組みを作り上げて、個性あふれる豊かな地域主権のまちづくりを推進
・従来の市町村において築いてきた、住民と行政の信頼関係を維持発展させ、自治組織の自立的運営を保証するシステムを構築し、各地域の実情に応じた施策展開をはかる現地解決型行政運営の確立
 具体的には、6市町村の現庁舎を利用して、「住民に直結するサービスを行う地域局(現地解決型総合事務所)」を組織化して「地域局長(副市長格)」を置き、権限委譲による許認可処理、条例にもとづく専決・代決規定による一定規模以下の予算執行、公民協働によるまちづくり必要予算要求など権限付与を構想した。
 また、旧市町村単位に、「歴史・風土・文化等が輝くコミュニテー、地域が自立したまちづくりのための住民組織(地域審議会)」を設置し、組織・任務・委員は、条例で制定するとしていた。

図2

合併協議不成立後の諏訪6市町村の現状と課題

 諏訪地域6市町村は、平成13年から16年までの合併協議が不成立に終わり、それぞれ自立の道を選択してすでに7年が経過した。
 この間の6市町村の人口動向・産業政策・財政状況などを概観してみると、6市町村が一体的に取り組まなければ、成果をあげ得ない多くの政策課題が提起されており、現状のままでは地域活力の低下が危惧される状況がでてきている。

1.第4次合併協議における反省点

 第4次合併協議では「分権型合併」を前提に「行政の直接・間接の経費削減」をすすめるとともに、国・県からの700億円を超える財政支援を最大限に活用して、「社会資本の整備」と「財政の安定化」をはかる「財政確立」を合併の第1目的としていた。
 このため、合併の協議においては、行政機関の合併は「まちづくり」の手段・方法であるとする観点が薄いまま、市民の視点に立った「諏訪圏域の将来構想」が十分に描かれず、また核となる分権型合併という仕組みについて、市民レベルでの議論が深まらなかった。

2.諏訪6市町村の動向・行政運営等の課題

 諏訪圏域の人口は、平成13年に212、358人の最大人口を記録した後減少に転じ、平成32年には20万人を割り込むと推計されている。市町村別の特徴をみると、人口減少の高い市町村は、岡谷市・下諏訪町であり、茅野市・原村は平成30年代まで緩やかな増加が見込まれる。年少人口比率・生産人口比率が減少、老齢人口比率は平成7年23%が27年には29%へ急増が見込まれ、また1人世帯・2人世帯の急増が大きな社会問題になってきている。
 一方、同規模の人口の松本市と比較すると、諏訪計は総人口と生産年齢人口の減少幅が大きく、結果、老齢化率は高くなり、地域活力が下がり、地域間格差が拡大する要因になるのではないか懸念される。
 各市町村の財政状況は、地方交付税の減額の影響は少なく全体的には安定を保っている。しかし、岡谷市立病院の建替えに97億円の資金を必要とする岡谷市と、パノラマスキー場整備に要した50億円の借金問題をかかえる富士見町は、将来の財政運営に大きな課題を残しており、市町村の財政上の格差が拡大する恐れがでてきている。
 産業界をめぐる動向としては、諏訪圏経済に最も影響力をもっている製造業が、安価で広大な土地と労働力を求めて、国内他地域や海外へ転出していることにより、事業所数・就業者・製造品出荷額とも減少傾向に歯止めがかからないことは地域にとって最大の課題である。働き場所確保の上から圏域あげて、積極的・効果的な対応を早急に講ずることが必要である。
 経済的なウエイトは低いが、諏訪地域農業の特色である、高原野菜農業については従事者の後継者不足が指摘されており、圏域あげての対応が求められている。
 また、観光面においては、松本城・上高地という日本有数の観光スポットがある松本市と比べて、諏訪圏域は目玉となる観光資源が限られている。観光客の増加をはかるためには、圏域に点在する資源を結合して、集客力を高める広域観光政策の開発に取り組まなければならないのである。
 福祉医療分野については、特別養護老人ホーム待機者対応・災害時医療体制整備など諏訪圏域共通政策について行政の壁があり、施策の推進がスムースに展開できない課題を抱えている。
 これら地域産業振興・福祉医療・防災・環境施策など6市町村に共通する政策への対応は、1市町村が単独で取り組むだけでは、効果を上げることは期待できない。それには、圏域が一体となって、タイミングよく・迅速に・財政的裏付けをもって政策化して、実行に移す「政策統合」の仕組みをつくり上げ、住民に働く場と安心・安全を提供することが、6市町村行政に対する時代の要請であると考えるのである。

3.自治体への期待―政策立案能力と経営管理力の向上

 現在、6市町村はそれぞれが策定した総合計画に基づいて、自市町村を対象とした「まちづくり」に取り組んでいる。特に迷惑施設建設の立案にあたっては、地域の実態調査・計画案策定・新しいまちづくり手法の開発などにおいて、専門能力を発揮し、計画の合理性の確保・住民合意の獲得・住民利害の調整・紛争解決ルールの制定などが求められている。
 一方、自治体経営にあたっては、政策自立・政策法務・財政自立を目指して自己決定・自己責任・自己負担の原則のもとに管理運営し、縦割り組織の弊害の除去・人事管理の仕組みを改革して、職員意識の変革・専門資質向上と活性化をはかってきた。また、財政的自立のために、事務効率化・省力化と職員の適正配置をすすめ、市民サービスと負担の見直しをはかってきたが、6市町村の個別的な行財政改革、特に人的削減は、困難になってきており、広域的な事務事業の共同処理・政策統合などによる、新しい自治体経営の道を開拓しなければならない時代となっているのである。

地域振興のための「政策統合」の提言

 今後、諏訪6市町村の振興・活性化を図るためには、諏訪圏全域の「将来構想」を確定させ、産業・福祉医療・防災・環境など、6市町村に共通する諸施策の展開にあたっては、「政策統合」を推進する必要があることを提言する。

1.「諏訪圏まちづくり将来構想」の策定

 諏訪圏域の将来構想・都市づくり基本方針について、諏訪広域連合は「諏訪地域ふるさと市町村計画」に、長野県は「諏訪圏域都市計画マスタープラン」において明らかにしている。前者は6市町村総合計画から共通項目を整理した程度に留まり、後者は6市町村代表メンバーによるヒアリングを経て策定されているが、これにより6市町村行政が規制されるものではない。従って現在諏訪圏域においては、公式かつ実質的な内容を備えた「諏訪圏域の将来構想・都市づくり基本方針」は存在しないと考えざるを得ないのである。
 そこで、諏訪圏域全体の振興を図るための大前提として、諏訪広域連合が6市町村の現状を徹底的に分析し、先進地域との比較ののち課題を抽出した上で、「諏訪圏まちづくり将来構想」を策定することが必要である。現状把握項目・将来構想政策の具体例としては、筆者は下記事項を想定している。
①諏訪圏域全体の土地利用計画と都市施設整備方針
②産業活性化の政策
③福祉・保健・医療の政策
④環境保全と向上の政策
⑤教育と子育ての政策
⑥文化・社会活動の政策
⑦行政と住民との協働体制

2.産業振興施策のより効果を上げるために

(1)製造業の広域的振興施策

 産業の中核である製造業に対しては、行政・商工会議所・テクノ財団・中小企業振興公社・大学などが支援体制をとっている。「諏訪圏工業メッセ」はその代表的な事例であるが、圏域に共通する振興策の企画・実施案件は個別的に行政および関係組織との事前調整が必要であり、施策決定と実行に時間を要している。
 特に企業立地・工場誘致など重要なテーマについては、個別行政単位の活動では、成果を上げることは困難な状況である。これらのテーマの推進に当たっては、6市町村行政が協定を締結して、事業機能を統合し即断即決が可能な体制を確立することが必要である。
 また、国・県からの財政支援を伴う製造業振興施策は、ほとんどが広域エリアを対象とする方式に転換している現状からして、「広域的産業振興に関する事務事業」は、諏訪広域連合の事業として位置づけ、国・県の政策の方向をいち早くキャッチし、圏域として一体的に対応することにより、迅速・効率的に処理することが必要である。
 〈具体的政策事例〉
①工場立地・新企業誘致施策の推進
②産業構造改革支援の強化
③販路拡大・人材育成・技術支援事業の展開
④諏訪圏工業メッセの継続開催支援

(2)広域観光の振興

 諏訪地方観光連盟は、各市町村別の観光組織で構成されているため、運営費用捻出など財政面の調整を含め、より全域的な長期的展望に立った観光施策を企画推進することは、むずかしい状況に直面している。解決策としては、諏訪地方観光連盟を、事業組合化または諏訪広域連合の1部門として位置づけて、行政組織の壁を解消し観光政策の統合化と、人的・財政的効率化をはかり、海外観光客誘致をはじめ、医療や農業と連携した滞在型広域観光開発を促進することである。
 〈具体的政策事例〉
①圏域内観光スポットのネットワーク化
②医療・福祉・農業など他産業と連携した滞在型観光政策の開発
③情報発信・誘客宣伝活動の強化

3.福祉・医療体制の充実・向上のために

 6市町村は一つの医療圏を形成し、諏訪保健所が主管して医療施策を展開している。しかし、6行政・3医師会構成の影響もあり、意思疎通と連帯感に欠け、法等に規制されない分野の政策においても、広域対応ができない状態が続いている。広域対応を必要とする具体的事例を次の通り列挙したが、圏域住民の医療・介護・福祉水準向上のため、関係医療機関・行政の協力の下に、課題解決の仕組みが確立されることが望まれる。
 〈具体的政策事例〉
①介護療養病床廃止に対する対応(在宅介護の仕組みの充実)
②特別養護老人ホームなど介護施設不足対策の実施
③岡谷市立病院統合新設問題への関与(高次医療充実と関連)
④ビハビリ施設の新設(観光政策に関連)
⑤災害時における医療体制の確立

4.防災・消防体制の確立

 諏訪圏域は、糸魚川―静岡構造線と中央構造線が交差する地点にあって、断層も多くみられ、東海地震防災強化地域に指定されている。防災対策は、各市町村事務になっているため、実際に地震災害が起きた場合の対策は市町村ごと個別に行なわざるを得ない状況である。
 また、消防体制は、諏訪広域消防署が組織化されているが、火災発生時は6市町村それぞれの消防署が消火活動を行なっており、指揮命令は統一されておらず、広域消防とは名ばかりの状態が続いている。災害対応と両輪を成す消防体制の統一は、地域に密着する消防団との関係上、多額な財政措置を必要とするため、行政の統合なくしては前進しない案件であるが、大規模災害発生時の広域対応は、広域連合が指揮命令を一本化して対応する体制を早急に確立する必要がある。

行政効率を高める「事業統合」事例の提言

 住民サービス向上・行政事務効率アップ・住民の行政参画度向上を目的として以下の5項目の機能統合・一体化をはかることを提言する。

1.国民保険事業を統合し介護保険事業との一体化

 現在6市町村別に行われている国民保険事業を統合して、諏訪広域連合が主管している介護保険事業と一体化することにより、良好な医療・介護サービスの提供・医療費削減・介護施設の整備充実・事務効率アップが期待できる。国保事業を統合する上で大きな課題となる、国保税(料)算定方法の違いから生ずる保険料の格差是正については、当初は激変緩和策を採用するものとし、数年かけて調整する必要がある。

2.水道事業の統合

 6市町村の水道料金は水源数・管理費用・給水規模・範囲などにより最大2倍程度の格差がある。これへの対応としては、6市町村の水道管を相互接続し、水源の統廃合・管理費用の効率化などによる安価な料金を実現するとともに、大災害時の給水に支障をきたさないために、事業統合は最も有効な手段である。なお、水道事業の民営化について、全国に先駆けて実施出来ないか、研究することが必要と考える。

3.滞納地方税整理の共同化

 平成20年度6市町村の地方税徴収状況は、現年度分は97%~99%であるが、滞納繰越分の繰入額比率は平均14%程度と悪い。そこで6市町村が共同して民間活用を含め、徴税担当の専門組織を編成して、徴税率のアップと時効による損害を避ける対応をとることが必要である。

4.ミニ公募債の共同発行

 諏訪圏域においては、特別療養老人ホーム・病院建設など多額な資金を必要とする事業、また子育て支援・少子高齢化対策・環境対策など諏訪圏域に共通するソフト事業がある。これらの事業への資金調達手段として行政施策への住民の参画意識を高める主旨を含めて、諏訪広域連合が主管するミニ公募債発行を提言する。

「政策・事業統合」の推進組織―諏訪広域連合―

 6市町村統合が不調に終わり7年経過した今日、隣接する松本・塩尻地区・伊那地区との地域間競争下にあって、人口規模が劣り地勢的条件が不利な諏訪圏域の発展を期するためには、前述の「政策統合」「事業統合」提言を広域連合が受け止め、強力なリーダーシップを発揮して実施に移すことが、現時点においては、現実的な推進方法であるからである。  この観点に立って、広域連合の改革の方向と機能強化について提言する。

1.正副連合長のリーダーシップ発揮を期待

 諏訪圏域の一体性を考慮するとき、正副連合長には6市町村個別の利害を超越した、大所高所からの政策的判断を行い、強いリーダーシップによって共通政策の実行を期待するのである。

2.諏訪広域共通政策企画センターの設立

 諏訪圏域共通の広域課題に対応するため、事務局の連絡調整機能を独立させて「諏訪広域共通政策企画センター」を組織化することを提言する。
 運営は、行政職員を主体に・民間企業・住民組織や公募メンバーによるものとし、第一に取り組むテーマは「諏訪圏域の将来構想策定」、第二は「政策統合」「事業統合」実施の具体化である。

3.首長協定による市町村間連携

 諏訪広域連合は、議決にあたり全会一致方式を採用しているが、これは結果として人的・財政的負担の利害に関連して、迅速な政策展開を抑制している。
 これへの対応としては、柔軟な市町村間連携の形態である、首長による政策課題ごとに協定方式の活用を求めるものである。協定方式による効果が期待される1つの事例としては、働き場が拡大し諏訪地域の産業振興・新産業育成が可能な「企業誘致」活動である。

6市町村「行政統合」への展望

 筆者は「行政の統合化は、行政効率を高め財政基盤の強化を通じて、団体自治・住民福祉サービス向上のための最良の手段である」という認識の上に立って、諏訪6市町村の行政統合の意義と必要性は、今日でも高いと考えている。  しかし、4次にわたる諏訪6市町村統合協議が、不成立に終わった歴史的過程からみて、長い歴史と伝統を有し自立心が旺盛な6市町村が一体になることは、今後はそう簡単に実現できるものではないが、中長期的に展望するという観点に立って、その意義と必要性を、改めて整理したものである。一般に用いられる市町村〝合併〟を「行政〝統合〟」という語句を用いる理由は、〝合併〟が単に一つになるという意味に対して「統合」は〝結合する・結集する・協力する〟という能動的積極的な意味を含むと解釈するからである。

1.財政基盤の強化

 6市町村行政の統合は、必然的に財政規模の拡大・財政基盤の安定化と強化により団体自治力を高め、広域的な視点からの地域特性を活かす投資が可能となることを松本市と比較して検証する。
 〈歳入の変化〉
 17年度歳入額は、諏訪計814億円、松本市は合併により887億円、18年度はそれぞれ778億円・849億円となって、松本市の歳入額は諏訪計を70億円上回わるようになった。松本市の歳入額の増加の主な理由は、人口増による地方税・地方交付税・国と県支出金の大幅な増額によるものである。
 〈科目別歳出の状況〉(下記グラフ参照)
 諏訪計が松本市を上回る性質別科目は人件費・物件費で、下回るのは補助費・建設事業費・扶助費である。
 諏訪計が松本市を上回る目的別科目は総務費・衛生費等で、下回るのは、民生費・土木費・教育費である。
 1人当り千円の差は、総額では約2億円の差に相当するから、諏訪計が松本市を上回る人件費・物件費から算出すると、諏訪計は松本市より32億円の支出増となり、諏訪の行政が6市町村であることによる過剰な支出が発生していると解釈できる。
 また、諏訪計1人当たり額が、松本市より下回る補助費・建設事業費・扶助費から算出すると、諏訪計は松本市より78億円少なくなっている。これは諏訪圏域において、差引46億円に相当する事業が、財政上の制約によって実施できなかったことを表わしていると解釈でき、社会基盤整備・医療・福祉・環境・文化・教育などの政策面で、地域間格差拡大をもたらす要因になっている。
 〈人件費削減額の試算〉
 平成20年度の諏訪計人件費(職員給与・理事者・議員・各種委員報酬等)は152億円で、総歳出額の20%を占め、松本市の149億円を3億円上回る。
 これは事務機能が共通する一般行政職(議会・総務・人事・税務など)の職員数が、諏訪計は松本市より280人多いことが主な要因である。  以上のような状況をふまえて、行政統合化を実現して、職員の適正配置による人員減、理事者・議員の減員によって、人件費は初年度で4億6千7百万円削減効果を上げることができると試算した。

図3

2.行政能力の強化と住民サービスの向上

 多種多様な行政課題への対応が求められる時代にあって、行政統合によって専任・専門職員の増強、住民サービスに対応する高度な体制づくり、機能統合による組織の簡素化などが可能となり、加えて政策立案能力の向上が期待できる。
 1市4村が合併して、4年が経過した松本市の平成21年度の組織は、12部77課・217係に編成されている。諏訪6市町村行政が統合して、秘書・企画・総務・人事・財務など管理部門を主体とした機能集約が図られると、組織面からは15%程度の削減が可能であると推測できる。

3.広域的視点に立った一体的なまちづくりの推進

 土地利用計画・都市基盤整備の分野において、行政の統合は広域的視点から施策の展開ができる。また、産業振興・福祉医療の充実・環境対策など各分野において、それぞれの市町村が培ったノウハウや資源を共有化・一体化し、さらに高度化することが可能となる。
 さらに、行政と地域住民組織・諸団体・NPOなどが連携・一体化してまちづくりを推進する新しい組織活動の展開が期待できるのである。

4.行政統合化の時期目標

 現在の6市町村長(「首長」と略)は、富士見町を除き平成23年(2011年)に改選された。
 統合問題は首長のリーダーシップによるところが大きい問題であり、どのような考え方をもつ首長が選出されるかに左右される。そこで、現首長任期の最終年度である平成27年(2015年)までに、「政策統合」「事業統合」を完成させ次期改選首長によって、6市町村行政統合化へ向けた道が開かれ、平成31年(2019年)4月1日に新市が発足できることを期待するのである。

5.6市町村ごとに「地域まちづくり協議会」設置を提言

 6市町村合併協議の中で、分権型行政のイメージが描かれ、住民組織と行政・議会との協働した「新市づくり」が提案され、行政と住民の協働する仕組みとして地域審議会の設置が盛り込まれたことを参考にして、行政統合に先行して6市町村ごとに「地域まちづくり協議会」(以下「協議会」)を設置することを提言する。
 協議会の目的は、①地域まちづくり計画の策定 ②地域住民意見の行政への反映 ③行政からの委託業務の実施とし、組織区域は、市町村ごとのおおむね小学校学区基を基本として、現行の各地域自治組織と調和するエリアを一区域として設定する。
 また、6市町村行政組織内に「協議会運営支援センター」を設け、計画策定支援・学習機会設定・専門家派遣などの活動を行ない、行政と住民との連携を強化する機能を担当する。

6.新市の運営基本方針―分権型統合―

 諏訪6市町村が統合した場合の運営基本方針は、第四次合併協議会における分権型統合の考え方を踏襲する「より高い政策立案」「より多い住民参画」「より安定した財政」を目指して新市全体を統一してすすめることであって、行政拡大によるスケールメリットを活かし、権限と機能の集中をはかる分野と、旧市町村の地域特性を活かし、住民ニーズに的確に対応するため権限と機能を分散する分野に区分する。
 権限と機能を集中する分野は、
 ①高度化・多様化するサービスの提供
 ②広域的まちづくりの展開
 ③重点投資による都市基盤整備
 ④行財政の強化・効率化
 権限と機能を分散する分野は、
 ①地域住民に直結する福祉・介護・環境・教育等の窓口事務とサービス提供
 ②地域に限定した諸課題対応
 ③協働と参画のまちづくりシステムの確立と住民活動支援
 ④地域文化の継承と創造
などである。
 行政組織の仕組みとしては、旧行政区域ごとに現地解決型総合事務所(地域局)を置き、また住民組織としては前項にて提言した「地域まちづくり協議会」を「地域審議会」に編成し直して公民協働のまちづくり組織とする。
 特に、地域局には理事者級を配置して一定の範囲で予算立案と執行権限を付与することにより、全市的な統一性を確保しつつ、旧地域の特徴・特色を活かす政策を継続して実施することが可能となるからである。
 一方、新市発足に伴う市議会議員数については、法にもとづき38名を基本とし、統合化1期目は6市町村単位に選挙区を設け、議員提案のできる4人を最低選出議員数とすることを想定している。

 以上のように、諏訪圏域に共通する政策・事業については「政策統合」と「事業統合」中長期的には「諏訪6市町村行政統合化」を展望して、統合までの構想を論述してきたが、これを提言だけに終わらせることなく、一住民としての立場から、提言の具体的な実現に向けて積極的な働きかけを展開することの決意を述べ、筆を置くこととする。

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